師匠と弟子 HIROTO NISHINO
2018年5月。自社ブランド製品を生産していただいている佐賀県唐津市にあるシャツ工場に訪問した。ゴールデンウィークに差し掛かったとき、九州では春が終わりすでに夏が始まっていたことを今でも覚えている。 ちょうど唐津では焼きもん市が行われており、ホテルでイベントマップをゲットしてふらふらと駅周辺を徘徊した。1時間ほど色んな展示を見て廻った後に入った会場でとんでもない器と出会った。 それは水谷渉(みずたにわたる)さんという方の展示場で、並んでいる器にはただならぬ気配が漂っていた。古いビルの一階。薄暗くて殺風景な場所に、ろくろで寸分のくるいもなく整形され仕上げられた作品と、それとは対極に壁側の一角には全く違うテイストな手捻りで作られたいびつでピュアな形をした作品が同席した空間だった。 ぼくは、その端に陳列されてある何とも言い難い形をした作品に 「嗚呼。これはヤバいな…」 とハートをグッと掴まれた。 作品をつくった本人と話をしたいと思ったけど、水谷さんはぼくの目の前でアウトドアのフォールディングチェアに座り静かに目の前の空気を見ていて、とてもじゃないけど気軽に話しかけれる雰囲気ではなかった。 「すみません。コレとコレと、あとコレもください」 と簡潔に欲しいものを伝えて購入した。
でっかいマグカップ(持ち手のシェイプ、ヤバい)
石みたいな香箱(色と質感ヤバい)
湯呑み(なのかこれは…とにかくヤバい)
ぐい呑み(ウチの息子が大きくなったらこれで父と3人で呑みたい。そんなこと想像するとヤバい)
東京に戻ってからインターネットで水谷さんの名前を検索すると画面には "水谷渉 鯉江良二" と言うワードが出てきて興味が湧いた。そのとき、水谷さんは鯉江良二さんという方のお弟子さんということを知った。 何年か経ち、新宿の紀伊國屋書店をウロウロしていたら”鯉江良二物語"という本が平積みで置いてあり、 「おっ!ウチにあるカップの人の師匠の話だ」と購入し、早速スタジオに帰って読みはじめた。
お酒が好きで豪快で、直感を信じて作品をつくり、ピュアに生きた。 とんでもない方だったんだな。と思った。 文中、鯉江さんと著者の梅田さんとお弟子さん(名前は無表記)が一緒にスープを作っているシーンがあり、その描写がおもしろかった。 話を水谷さんの器に戻す。 ぼくは陶器のこと詳しくないけど、水谷さんの作品はなんだか妙味があってすごく格好いい。たまにアップされるインスタグラムの投稿を見てこれから制作される作品も楽しみにしている。 現代は仕事や職場を"ホワイトか?ブラックか?"といった客観視で判断する傾向が強くなっている。 "興味をもった人に付き、一旦その人に染まって共に生活をおくる"そんなタフな師弟関係は少し古い文化になってきていると思う。 ただぼくは、当人同士しかわかり合えない師弟関係に人の情を感じる。 コロナが落ち着いてきた今日、もうちょっと主観でアナログな付き合いや時間にスポットが当たるといいのに。。。 このカップでコーヒーを飲むと、ふとそんなことを考える。
PROFILE 西野裕人 | Hiroto Nishino <Riprap>デザイナー。1984年石川県生まれ。 2015年より自身のブランド<リップラップ>をスタート。 2018年より秋葉原にRIPRAP STUDIOを構え不定期にてイベント”OPEN STUDIO”を開催。 弟子経験あり。師匠はスタイリストでありブランド<BROWN by 2-tacs>を主宰している本間良二さん。 今回のコラムは「良二の弟子が良二の弟子の器を使っている」という話でもある。 http://r-i-p-r-a-p.com/