だし・麺 未蕾
初めて未蕾に足を踏み入れた時のことは今でも鮮明に覚えている。 店内いっぱいに広がる出汁のいい香りと、寸胴から立ち昇る湯気が2月の寒い夜にはピッタリすぎるほど暖かく迎えてくれた。黒板のメニュー表から「だしそば、醤油」を注文すると、薄暗く照らされたカウンターに案内された。 「こんばんは、いらっしゃいませー。」 控え目で心地良いBGMの間を縫って、時折、いい感じの挨拶が店内に響き渡る。 僕はラーメンを食べる前から、すでにこの店が生み出すグルーヴにやられてしまっていた。 どんな店主なんだろう?ドキドキしながらカウンター越しに厨房の中を観察していた。 黙々とラーメンを作り続ける店主は、無口で髭面。湯切り中の背中にまとうオーラが只者ではなさそうだ。 高校を卒業したばかりの僕には、いかにもおっかない頑固親父にしか見えなかった。(店主、当時まだ32歳) 「お待たせしましたー。」 ラーメンがカウンターに運ばれる。 丁寧に整えられた麺線の上に、トッピングのチャーシュー・ネギ・海苔・メンマ・ほうれん草・ナルトが綺麗に並んでいる。 舞い上がる湯気と出汁の香りを顔面に浴びながら、スープの中から麺を引き出すと一気に啜った。 歯切れの良い自家製の細麺。煮干し出汁の効いたあっさりだけどパンチのあるスープ。 僕はラヲタでもないし、とりわけグルメなわけでもないけれど、世の中にはこんなうまいラーメンがあるんだと衝撃を受けた。 なにより、あの風貌の店主がこんなにも繊細でやさしいラーメンを作るなんて想像できなかった。 (ちなみに某口コミサイトに、「店主が世紀末覇者」と書かれているのを見つけたことがある。ラオウ=ラ王とはうまいこと言っている。) それから1年後、僕は未蕾でバイトとして働くこととなる。 惣二郎さん(店主)のお店に対する考え、細部へのこだわりや気遣いを肌で感じ、ますます未蕾が好きになっていった。 そのこだわりをどこに感じるかは人それぞれだが、是非一度お店に足を運んでみて体感してほしい。
最近は趣味が高じて『過去』という屋号で古物商にも力を入れているようなので、B面(居酒屋裏メニュー的なやつ)をつまみにビールでも飲みながら店内の掘り出し物を物色してみては。 きっと世紀末覇者(ラ王)が、ラーメン以上に優しく熱く語ってくれること間違いなし。
だし・麺 未蕾 〒443-0059 愛知県蒲郡市本町1-25 営業時間 月・火・木~日 11:00~14:00 木~日 17:00~19:30(L.O) 定休日 水曜日終日、月曜日と火曜日ディナー 電話番号 0533-55-6010
Text : Aozora Oda Photo : Shinya Rachi