映画「余命10年」インタビュー

2022年3月4日公開の映画『余命10年』は、気鋭の監督、藤井道人が同題の小説を原作として手がけた話題作だ。
その主役、茉莉(まつり)と和人(かずと)を演じる小松菜奈、坂口健太郎の2人に、GOOD ERROR MAGAZINEを代表して巽 啓伍がインタビューを行った。映画評論サイト「BANGER!!!」にも定期的に寄稿するほどの映画・ドラマフリークの巽による体当たり取材が功を奏し、小松、坂口が抱く今作への思い入れや、役作りへのこだわりといった貴重な話を聞くことができた。あくまで巽が聞き手ではあるものの、年齢も近く、同じ表現者として各分野で活躍する3人が互いの相違点や相似点にも触れながら同じ目線で話す様子は、インタビューというよりも、どことなく対談に近いかも知れない。
映画「余命10年」インタビュー
巽啓伍(以下、巽):今日はよろしくお願いします。インタビュアーの巽です。普段はnever young beachというバンドでベースをやってます。

坂口健太郎(以下、坂口):え、ネバヤンの?! すご! びっくりしました。これはどういうインタビューなんですか?

巽:GOOD ERROR MAGAZINEで連載をやらせていただいてるんですけど(similar but differen)、その流れで僕がインタビュアーをやってみるという話になって。でも実は僕インタビューやったことないんですよ。

坂口:今回が初の初ですか?

巽:初の初っす(笑) 自分もバンドでインタビューしてもらうときに「これ何回聞かれんねん…」みたいなこともあったりして。だから、今回自分なりにめちゃめちゃ考えたんですけど「あれもこれも聞かれてたらどうしよう」みたいないろんな勘ぐりが入っちゃって(笑) でもひとつずつ聞いていきますね。

小松菜奈(以下、小松)・坂口:はい。

巽:まずは作品と関係ないお話になるんですが、僕も音楽をやってるなかで、去年一昨年はコロナの影響でメンタルが落ち込むことが多かったんですけど、同じエンタメ業界にいるお二人はどういうセルフメンタルケアをされていたのかなと。

小松:そうですね。2ヶ月半、本当にぴたっと止まった時があったじゃないですか。

坂口:最初の緊急事態宣言の時だね。

小松:確かに不安だったし「これからどうなるんだろう」と思ったけど、改めて仕事や生活など、この先のことを考える貴重な機会になったと思います。時間を持て余すので、家でご飯を作ったり感染症対策をしながらランニングしていましたね。特に健康面には気を使いました。

坂口:俺はけっこう落ち込んでたかも。当時、心の琴線に触れた言葉を集めるという仕事をしていたんですけど、緊急事態宣言で2ヶ月くらい動けなかった時に自分が集めた言葉をあとから見ると、結構鋭い言葉が多かったんですよ。暗いとか明るいとかでもなくて、ただエネルギーがある言葉なんですけど、そういうのを多く選んでたんです。普段は、基本的にポジティブ思考だし、ロックダウンの時期も自分のなかでは「ちょっと休みだ」くらいに思ってたつもりだったけど、時間が経って改めて振り返ると意外とダメージがあったんだと思います。

小松:うんうん。

坂口:「人はちゃんと顔を合わせて話をしないといけないんだ」と改めて気づけたのは良かったです。役者の仕事は、カメラの前でセリフを吐くことかも知れないけど、その前段階できちんとコミュニケーションをとることが大事だと再確認しました。
「余命10年」小松菜奈
巽:面と向かって話すことの重要性はより感じましたよね。では『余命10年』は、最初の緊急事態宣言の後から撮影がスタートしたんですか?

小松:2020年の9月から撮り始めて、2021年の6月に終わりました。

巽:この約1年の撮影期間の間は、もちろん他にも仕事があるわけじゃないですか。役に没入するためのきっかけというか、スイッチみたいなのはありましたか?

坂口:僕は衣装を着てメイクしてもらってその場に入ることが、割とスイッチになってます。
この作品を撮っていた1年間はいろんな役が被ってたので引っ張られそうになることもあったんですけど、例えば『余命10年』の役とは別の、もっと現実離れした役があったとしても、そういう準備が自分のスイッチです。でも一方で、茉莉は減量をして身体的に役に入り込まないといけないし、僕よりも身体の状態を保たないといけなかったと思うので、この役を1年間やり続けるのは凄まじいことだろうなと思って見ていました。大変だったでしょう?

小松:そうですね。急に痩せるのは難しいので、徐々に減量して身体の内側から変えていく必要がありました。あとは作品が始まる前に、原作者の小坂流加さんのご家族から伺ったお話の内容が頭の片隅にずっとあって。だから、生活のなかでふとした時に茉莉を思い出したり。常に茉莉と隣り合わせな感じでした。

巽:なるほど。なぜこれを聞いたかというと、僕らは衣装も着替えなくて会場に来た格好のままでステージに出ることが多いので、そういう意味でお二人はどうスイッチを入れてるのかなと気になったんですよ。

小松:ライブの時は私服なんですか?

巽:そう、私服なんですよ。スタイリストも一回もついたことなくて。

坂口:きっとそれって特殊なんじゃないですか?

巽:めちゃくちゃ特殊らしいんですよ。僕はそれしか知らないんですけどね。Tシャツにケチャップが飛んでる状態でライブすることもあり得ます。

坂口:でもそういうラフな感じもかっこよくないですか?

巽:着の身着のままみたいな(笑) でも衣装があることに憧れますよ。
「余命10年」坂口健太郎
巽:『余命10年』の原作者である小坂流加さんが既にお亡くなりになっている状態での映画制作でした。茉莉と和人の人物像について、原作者から話を具体的に聞けないというハードルがあるなかで、役の存在をどう捉え、どう作り込んでいったんですか?

坂口:僕がやった和人という役は、ある種偶像なんですよ。小坂さんにとっても頭の中の登場人物だったんです。だからどうしてもフィクション感は拭えなかったですね。台本に書いてある台詞も、文字としては読めるけど、それを声に出す時に現実味を帯びないこともあったりして。だから台本が完成した時に、どこまで和人に生身のものを与えるかが難しかったです。ただ、和人って最初から最後までずっと茉莉のことを想っているんです。つまり、どこまで茉莉への想いに真実味を持たせるかで、すごく生き生きとしてくる。だから何か役作りをするというよりも、菜奈ちゃん演じる茉莉のことをどこまで慈しめるか、愛しく見れるかはかなり頭に置いていました。

巽:小松さんはいかがですか?

小松:茉莉という人物は、小坂さんが闘病中に加筆された部分が多いんです。だから原作を読んだ時に、「小坂さんがこうであってほしいと思っていたんだろうな」というリアルな部分が垣間見えるところもあって。小坂さんのご家族にお話を伺った際には、彼女の性格や小説を書いていた場所、それから植物が好きで、必ず部屋に飾っていたことなども教えていただきました。そういった作品の原点や、茉莉のもととなるものを探しながら藤井監督が台本に加筆していく。そういう作業のなかで次第に見えてくるものがありました。現場に入る前の段階で台本を読んだ時、正直「この言葉って自分のなかでは歯がゆいな」「この言葉言えるかな」と思うこともあったんですけど、1年間撮影していくなかで自分が茉莉になっていくというか、「茉莉として生きている」という不思議な感覚がありました。違和感があった台詞も自然に言えて。

巽:撮影していくなかで肉付けされていく感覚が2人ともあったんですね。

小松:それは絶対にあったと思います。
「余命10年」巽
巽:死という概念の捉え方や立場が異なる和人と茉莉ですが、言葉にすることで次第に互いを知っていく描写があったと思います。言葉にせずとも伝わることはあると思いますか?また逆に、言葉の力に救われたことはありますか?

小松:救われたこと…。んー。(しばらく考え込む)

巽:最後にめちゃくちゃヘビーな質問をしてしまいました。

一同:(笑)

坂口:でも“言わずとも伝わること”って絶対にあると思います。あってほしいとも思う。

小松:うん、絶対ある。

坂口:それから自分の考え方が変わって、結果的に「救われたな」ということはあって。今回もそうなんですけど、和人としては一番最後のシーンで…あれ、これネタバレはいいんですか?

一同:(笑)

坂口:…で、最後に和人が1人で桜並木を歩いていくシーンがあるんですけど、あの時の表情について。僕は“死を乗り越える”っていう言葉があまり好きじゃないんです。誰々の死を乗り越えて…と言っても記憶からなくなるわけじゃないから、乗り越えるという言葉にどこか違和感があったんですね。自分のなかでフィットしたのは、“受け入れる”という言葉です。そのシーンでも、乗り越えた表情と受け入れてもう一度進んでいく表情はまったく違うと思う。受け入れる=茉莉に対して最後まで愛を向けていたということだと思うし、そう考えてみると楽になったんです。撮影時に藤井監督とそこまで話したかどうか覚えてないですけど。

巽:なるほど。故人が記憶からなくなることはないですもんね。絶対にみんな頭の片隅にあるし、あるべき。

小松:私は、デビュー作の中島哲也監督から言われた言葉に救われました。18歳の時に『渇き。』という作品で本格的に女優デビューさせていただいたんですが、初めてだから右も左もわからない状態。しかも新人にも関わらずその作品のカギとなる役だったんですね。まるで、ふっとそこに置かれて上から照明が当たってる…みたいな感覚で。そもそも当時お芝居の仕事を続けていくのかもわからなくて「どうしよう…」って思ってたんです。でも、監督が作品を撮り終えたあとに、「別に女優にならなくても、自分が好きだと思うことに向かえばいいし、あなた次第だから重く考えなくていいよ」と言ってくださったんですね。その言葉が自分にとってはすごく救いになって、むしろ「まだ芝居をがんばりたい」と思えたんです。

巽:なるほど。もうお時間が…。

小松:早い!

巽:早かったですね。今日はありがとうございました。

小松・坂口:ありがとうございました。
「余命10年」
映画「余命10年」
©2022映画「余命10年」製作委員会
『余命10年』
原作 : 小坂流加「余命10年」(文芸社文庫NEO刊)
監督 : 藤井道人
脚本 : 岡田惠和 渡邉真子
出演 : 小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、井口理ほか
音楽・主題歌 : RADWIMPS「うるうびと」(Muzinto Records/EMI)
配給 : ワーナー・ブラザース映画
映画公式ツイッター : @yomei10movie
2022年3月4日(金)全国ロードショー
Interview : Keigo Tatsumi (never young beach)
Photo : Yusuke Oishi
Styling : Ayaka Endo (Nana Komatsu), Tomoko Tanaka (HIKORA / Kentaro Sakaguchi)
Hair & Make-up : DAKUZAKU (TRON / Nana Komatsu), Rumi Hirose (Kentaro Sakaguchi)
Text : Seiji Horiguchi

Apparel cooperation
Nana Komatsu : シャツ¥22,000(ジャンティーク 03-5704-8188)、Tシャツ¥8,800(ステージ 03-6416-1423)、パンツ¥39,600/トーガ プルラ(TOGA 原宿店 03-6419-8136)、イヤリング¥57,000/シャルロット シェネ(エドストローム オフィス 03-6427-5901)、リング [左手ひとさし指] (ゴールド)¥30,800、[左手小指] ¥30,800/ともにフォーヴィレイム(フォーヴィレイム カスタマーサポート customer@fauvirame.com)、[左手ひとさし指] (シルバー、2個セット)¥41,800/ブランイリス(ブランイリス トーキョー 03-6434-0210)

Kentaro Sakaguchi : パラブーツ/パラブーツ青山店