melting in mercado KEIGO TATSUMI

"なんか去年より暑く感じませんか?"
カーステレオから流れるラジオ番組でそんな会話が聞こえた時に、サービスエリアに着いてエンジンを消した。
今、僕は暑さよりも尿意なんだよなあと内心呟き、ドアを開けて一歩踏み出す。

夏のアスファルトは60°近くまで上がっているそうで、反射した熱にくらっとするけど、何よりも優先すべきはトイレなのだ。
鮮やかな色の服装に身を包んだ人達の期待は苗場に向けて、尿意は等間隔に並んだ便器へ解放している。
隣に立った同年代くらいの二人組の会話が耳に入った。

"小学生の頃とかこんなに暑かったっけ?"
車に戻って、さっきの会話が気になって調べてみたところ、猛暑日(35°以上)は
1994年以降からどんどん増えているそうだ。なので、彼が言っていたことは間違ってないみたい。
僕も彼らと同じ様に思う。小学生の頃ってこんな暑くなかったね。

"やっぱり会場は新潟だし山の上だから過ごしやすいかな~"
1年前の記憶が曖昧な僕はまったく学習せず、のうのうと助手席に向かって言っている。
車は高速の出口を抜けて山に入って行く。
窓を開けて手を出すと、東京と変わらない日差しが皮膚を通り抜けていくのがわかった。
Prince Hotel
テレビを点けると聞き覚えのない声ばかりのドラえもんと、道中で汗だくになったLead BellyのTシャツ。滞在時間最長のステージ。
Bass sleeping with buttocks out in bed
Base sleeping with buttocks out in bed
気持ちを落ち着かせる為にホテルの部屋で弾いたり、弾かなかったりした結果、布団をかけてみた。今年で60歳のベース。お尻出したまま寝てる。
Lift to the sidelines
のんびりしたいなと思うけど誰もいないから、なんか行けない。動いてないリフトを見るのもここに来た時だけ。
green stage
全曲で始まった瞬間に手をあげて歌ったthe strokes。12歳の時にたまたまMTVで見たライブから始まった青春を終わらせるつもりが終わりませんでした。silent!!!
Heaven to White
Cory Wongを観てから、向かったLouis Cole。自分自身の楽しさが溢れて、人を楽しませてしまう美しい光景だった。
Red Marquee
川で涼んだあとに見たJohn Carroll Kirbyとそれを撮る働く男。MCで坂本龍一さんや高橋幸宏さんについて触れたあと始めたYMO/Rydeenに、サマーブリージンを感じずにはいられませんでした。
rehearsal at green stage
目の前に広がる山々を眺めながら、開場直後のゆったりとした中でのサウンドチェックは、音がぐんぐん伸びていく様を体感できて贅沢。4年振り2回目のグリーンには久しぶりの男はつらいよ・車寅次郎のスーツを着てオンステージ。曲が進む度に、身体が干涸びてしまうんではなかろうかという量の汗を全員が出しながら、演奏した60分は体感20分くらいだった。意識が虚ろになりかけた後半、客席にいる汗だくのおじさんが全力で歌っているのが見えて救われたな。今年で4回目のフジだけど、毎回全力で歌っている人を探してしまう。
campcite to hotel
campcite to hotel
常に灯りがついていて、どこかで音楽が鳴ってて、ごはんやお酒をが楽しめて、外で映画も観れて、大道芸もあって。日常から切り離された山の中に突然現れる3日間だけの村みたい。
Pyramid Garden
楽しみにしていたEddie Chacon with John Carroll Kirby。2日目、魅力的な低音に誘われ見入ったcoppe'やlittlenap coffeeのミルク珈琲と今年もよく行った思い入れのある場所。
“日が沈むと過ごしやすかったね”
白亜紀は現在より平均的に14°近く高かったらしい。
地球には氷河期があったりなんだりのリズム上、暑くなったり、寒くなったりするのは時の流れという見方もできる。
まだ快適な時代に、たまたま生まれて、フジロックという文化を体験することが出来てラッキーだった。
気候は匂いや目や耳から入る情報と共に、思い出の中のタグとして残っている。
普段の生活とは切り離され、立場や年齢や性差を意識することの無い並列な三日間だけの村。

音が鳴り続けて、いつでも食事ができて、各国の文化に触れ、自然を同時に体感することのできるこの場所が文化として少しでも長く続き、僕もみなさんもまた帰って来れますように。

帰ろう / never young beach

TATSUMI KEIGO
PROFILE
タツミケイゴ | Keigo Tatsumi
ミュージシャン / 写真家
never young beach,Bass