Muddye & Naturaldye HOODIE diidii×Aru-2

温暖で多湿な気候に、二百色では到底足りない数の“緑”が入り乱れる深い森、そして悠久の時を経て今もなお残る独自の生態系-。「東洋のガラパゴス」とも呼ばれる奄美大島は、訪れた人を圧倒し、同時に虜にする。そんな不思議な力を宿した島で1300年以上受け継がれてきた代表的な伝統技法が「泥染め」だ。「テーチ木」と呼ばれるバラ科の植物から生成した染料と鉄分を多く含む奄美の泥によって、生地や糸を深みのある黒に染める。奄美発のアパレルブランドdiidii(ディディ)は、この泥染めを取り入れた “伝統×現代”のプロダクト作りで注目を集めている。そんな気鋭のブランドと、ビートメイカー、DJ、エンジニアとして知られるAru-2とのコラボプロジェクトの報を受け、GOOD ERRORチームが奄美を訪問。ブランド発足時のエピソードや今回のコラボに至るまでの背景を聞いた。
奄美ならではの「泥染め」へのフォーカス。きっかけは外からの声。

◇まずはブランド立ち上げの経緯から教えてください。
よくある流れなんですけど、奄美出身の同級生5人くらいで「なんか面白いことやりたいね」って話があがって「まずは洋服作ってみようか」となりました。でも自分は洋服が好きだったので、既存のボディにロゴをプリントするだけじゃなくオリジナルのボディ作りからやりたいって思って。そこで東京の縫製工場に連絡して「生地選びから洋服を作りたい」と相談をしたら、その工場からパタンナーさんに繋げてくれました。そこで一から打ち合わせをして、ヘンリーネックのTシャツを製作したのが最初です。そこから僕が洋服作りにはまって、2022年10月くらいから一人でブランドをやることになりました。「diidii」という名前をつけたのもその頃です。
◇ブランドネームの由来は?
「でぃ」っていうのが奄美の方言で「ほら」っていう意味なんです。「ほら、行くよ!」とかだったら「でぃ、行くよ!」と言います。「ディディ」って響きも覚えやすいなと思って。

◇泥染めを洋服作りに取り入れるアイデアは最初からあったんですか?
はじめは染めずにベーシックなものを作っていたんですが、東京でのイベントやポップアップを通していろんな人と話すうちにヒントをもらいました。「奄美でやってる」ということに対して反応が良いことが多くて。前まではあまり奄美に住んでることの良さとか伝統への意識は薄かったんですが、それを外の人から指摘してもらううちに、奄美でしか作れないものにフォーカスするようになっていきました。

◇外からの視点によって身近にある文化を再認識したという流れなんですね。「泥染め×洋服」というアイデアを形にするのは難しかったですか?
泥染めなどの天然染色を行う[金井工芸]さんというところがあるんですが、その2代目の方がアパレルメーカーとのコラボを積極的に取り入れている方なんです。過去にはユニクロとも一緒にやっていたり。なので割と最初の話はスムーズでした。でももちろん職人さんが染める作業は本当に手間暇がかかっています。奄美にしかない植物を煮出して、洋服に染み込ませる。その日の気温によって色も変わってくるので、求める色を安定して出すのは難しいと思います。






◇次にAru-2さんとの出会いから今回の企画に至るまでの経緯を教えていただけますか?
自分たちが主催してる奄美の野外イベントにAru-2さんを呼んだのが初めの出会いです。奄美はクラブもないし、音楽シーンの土壌のようなものもほとんどないんですが、自分たちが好きなアーティストを呼んで生で聴きたいし、周りの人にも楽しんで欲しいと思ってイベントをやり始めました。で、Aru-2さんをゲストに呼んだ時に奄美のことをとても気に入ってくれて「なんか一緒にやりたいね」と言ってくれて。その1年後くらいに東京の[PADDLERS COFFEE]でdiidiiのポップアップをやった時にAru-2さんが来てくれて、その時に「GOOD ERROR MAGAZINEっていうおもしろいチームがいるんだけど、そこに取材してもらう流れでdiidiiと自分でコラボの企画をやってみない?」と提案してくれたんです。そこから1年ほど2人で案を練って、持ち上がったのが今回の企画です。

◇Aru-2さんも奄美の魅力の虜になったわけですね。(Aru-2に)どういう部分でフィールしたんですか?
Aru-2 : ただ新しいものを追ってくだけじゃなく、日本人が代々受け継いできた伝統的なものと「今」のものをクロスオーバーさせて作っていくっていうのが俺の理想系だったんですよ。それと奄美の自然をあちこち案内してもらって「こんな植物見たことない!」っていうのがめっちゃあって。日本本来の形がまだ残ってる場所の一つなんだろうなって思います。奄美の人たちの暮らしとかからも本来の日本人の文化を感じますね。
◇今回「diidii×Aru-2」のコラボ企画でリリースされる商品についても教えてください。

今回は15オンスほどの少し分厚めのフーディです。配色を迷彩のような仕上がりにしたくて、そのためにブラウンの生地のボディを縫製工場にあげてもらい、それを緑に染めてもらう(※)という工程で進めました。藍染めと泥染めを掛け合わせると緑っぽくなるんですが、それをあえて、ムラがある状態で染めてできあがったのが今回のフーディです。さらに、Aru-2さんが奄美でフィールドレコーディングして制作した音源をQRコード化して、フーディの袖に刺繍でつけています。買った人に聴いてもらったり、友達と共有してもらったりして広まって欲しいですね。
※当フーディの染色作業は今回取材班が訪れた[金井工芸]ではなく、同じく奄美内にある工房[カンムラ染色]に委託。






◇とにかく“奄美”を感じるフーディですね。生地は狙った通りの染まり方になりましたか?
狙った以上の染まり方でした。「こんな色、出るんだ!」って驚きました(笑)。普通は白の生地を染めることが多いなか、「ブラウンのボディを染めるとこういう色が出るのか」っていう発見もありました。ただ今回染めてくれた[カンムラ染色]さんにとっては、ブラウンのボディを染めるのは初めての試みだったので、相当大変だったと思います。洋服も分厚いですしね。こちらが求める色を出すまでに、3~4ヶ月くらいテストを重ねて作りあげてくださいました。
◇手作業で、しかもムラ染めということは、一つひとつ染まり方が微妙に違うということですね。
そうですね。Aru-2さんに着てもらって奄美で撮影した写真と本番であがった現物でも若干変わっていますが、それもまたおもしろいところかなと思います。





数日にわたる撮影と取材を通してGOOD ERRORチームも多分に漏れず奄美の虜になったわけだが、過去にリョウマさん主催の野外イベントに出演したアーティストのなかには、定期的に家族で島を訪れるようになった人までいるという。相当強い引力を感じるが、何か不可思議なパワーが渦巻いているというよりも、むしろ圧倒的に無為自然であるがゆえなのかもしれない。奄美ならではの海や森だけではなく、そこに暮らす人々もまたナチュラルで懐が深い。その懐の深さや邪気の無さが情報や競争でくたびれた我々を癒し、「また来たい」と思わせる。今回の企画で生まれたフーディには、そんな奄美大島原産のエッセンスが詰まっている。

diidii
・ブランドコンセプト
地元の奄美大島を拠点に決まったルールやブランドコンセプトは設けておらず、自分たちが着たいものを展開。
・diidii(ディディ)の由来
奄美大島の方言で「ディ!」は「さあ、〜しよう!」という意味のかけ声です。次の行動を促すときに使われます。発音は「di」で、そこからdiidiiが由来されました。
・オンラインストア
https://diidii.official.ec/

Aru-2
1993年生まれ、埼玉県川口市出身の音楽プロデューサー、ビートメイカー、DJ、サウンドエンジニア。
これまでソロアルバムやコラボ作品を愛と縁のあるレーベルから次々と発表、ソロアルバム"Anida"を2024年リリース。
ISSUGI、JJJ、DAICHI YAMAMOTO、小袋成彬、KID FRESINO、NF ZESSHOなど数多くの国内アーティスト達への楽曲プロデュースに携わる。
取材 : GOOD ERROR TEAM
Text : Seiji Horiguchi