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AYANO TAKASE Works
イギリスを拠点にアートディレクターとして活躍するAyano Takaseさん。そんな彼女の貴重な来日期間中に、旧知の中である編集長がインタビューを実施。これまで話したことがなかった仕事のことなど、あれこれ聞いてみました。 
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◇若い頃から洋服好きだったよね。 
 
すごく好きだった。服も靴も。だけど、だんだん好きなものと、そうじゃないものを自分で区別していくようになって。ある時、もうそんなに必要ないなって思い始めて。ちゃんとしたものを大切に長く使えば、量は必要ないってことに気付いたの。それが10代の時かな。もちろん今も服とか靴とか好きだけど、なんでも長く大切にすることが好きになった。
 
◇そんなファッション好きのAyanoが、ロンドンのアートスクールに進む決断をした理由は何だったの?
 
なんでだろうな。自分が住んでいるところから環境を変えたかったっていうのはあったかな。あと、シティが好きで。でも、東京じゃなかった。東京には、そんなに憧れはなくて。ヨーロッパの建築物が好きっていうのもあったかな。ヨーロッパは災害が少ないから、何百年前の建物が普通にずっと残っていて。それに、シティが好きって言っても、ロンドンは公園もすごく広くて自然がすぐそこにあることがすごく好き。シティの中に十分な自然がある環境で、生活したかったっていうのはある。それと私、学生の頃から英語がめちゃくちゃ得意で。バレエの関係もあってよく海外に行っていたから、海外で生活することが身近であったと思う。 
◇イギリスにはどのくらいいるんだっけ? 

19歳の時からロンドンの大学に行って、卒業して向こうで2年くらい働いてから日本に戻って来て。2年半くらい前にまたロンドンに戻って。日本にいた時はWieden+Kennedy(ワイデン アンド ケネディ)っていうクリエイティブエージェンシーで6年くらい勤めていて、今回ロンドンに戻ったのはロンドンオフィスに行くことになったのがきっかけ。東京オフィスとロンドンオフィスにトータルで8年くらいいました。だけど、最近独立しまして。

◇独立のきっかけは?
 
そもそも、なんかもう辞めどきが分からなくなってきちゃって。
 
◇じゃあ、結婚のタイミング?(笑)
 
そう!結婚のタイミングかな(笑) 
beautiful people works2
◇デザインの仕事をする中で、エキサイティングする瞬間はある?

エキサイティングする瞬間は、クライアントが求めていることと、リサーチしていること、そしてデザインした物がうまくハマる時。デザインのお仕事は緻密なリサーチが重要で、リサーチの時間は、すごく大好き。作っている時間よりリサーチしている時間の方が長いし、手を動かす時間の方が少ないかな。リサーチしていることが頭の中で全てつながる瞬間があるのだけど、それが一番気持ちいいかな。でも、「迷宮入りしちゃった」とか、「もう1回調べ直さなきゃ」とか、そういう時もある。でも、いつかはつながるから。だけど、そのフローが短時間でできた時は「あぁ、よかった」って。
 
◇それは気持ちいいね。
 
うん。考えていることと、実際にデザインすると、少し違ってくる時があって。考え方・コンセプトは変わらないけれど、デザインをしている時に「あ、こっちの方がいいかも」と思って、結局作り出してみないと分からない時もある。
 
だから、基本的にはたくさんデザインして、っていうのがいいのかもしれないけど、私はあまりたくさんは作れないかもしれない。リサーチにかける時間が長いから、そこから崩す必要がないというか。傲慢な考え方とかじゃなくて、なぜここにたどり着くのかっていう説明がしっかり出来れば、それが正しいものだから。  
◇資生堂の仕事のリサーチは、どういうことをしたの?

私、ビューティーのお仕事がすごく好きで。WASOっていうスキンケアのクリエイティブを担当していて、スタートからずっと携わらせてもらいました。その当時は、まだ世界的にもジェンダーレスのスキンケア商品として打ち出しているプロダクトが全然なくて。肌のことももちろんだけど、それよりもっとジェンダーのことや、“思想”に関するリサーチもものすごくたくさんしたな。

このリサーチを通して、私自身もすごく理解が深まったと思う。日本でもようやくジェンダーレスとか、ダイバーシティとか言われるようになったけど、振り返ると、日本はそのような課題の発信がとても遅いと思う。 

最終的に、“性別も肌の色の区別なく自然な姿が一番美しい”というコンセプトを世の中に発信する、思想を変えることが目的のプロダクトになった。そういうスキンケア商品は、その時期にはなかったように思う。  
ナイキの女子ワールドカップ Works1
◇ナイキの女子ワールドカップの広告は、どういうリサーチをしたの? 

ロンドンに行って最初の仕事で、選手の名前とチームが短時間で全然覚えられなくて、「やばい、覚えられない」って時に、覚え方として“カードゲーム”だって思って。それがそのままデザインとして落ち着いたんだよね。

◇ひらめくね。

そう、自分のピンチがこんなふうにヒントになるなんてね。 

◇これは、もともとどういう広告だったの?

昔自分が好きだったアイドルとか、スポーツ選手とかのポスターを自分の部屋の壁とかにたくさん貼ったりしていたじゃない?そこからコンセプトができていて、各チームの選手のポスターをたくさん作って、そのチームを応援してくれているファンの子供たちに配ったの。ポスターをもらった子たちは、それを部屋に貼って、選手やチームを応援して。すごくいいキャンペーンだったと思う。 

◇最後に、これからどうなっていきたい?

やっぱり独立したっていうのが大きくて、もう少し自分のことを考えたいかも。これからは「自分自身がどんな人になりたいのか、どういうデザインをしていきたいのか」っていうのを、少しずつ考えていく時間が大切かなと思う。 

◇そうだね。仕事していると、相手のことばかり考えちゃうよね。

そうだね。だけど、自分が何をしたい、どうなりたいっていうのが分かってくると、作品ももっと変わってくると思う。何が作りたいっていう幅が広がると思うから。クリエイティブエージェンシーのワークスタイルって、すごく忙しくて。大きな案件のお仕事をする機会をたくさん与えてもらって、とても充実していたけれど、エージェンシーのお仕事はチームの一員として動いているので、その中に自分の意見はあるけれども、それよりチームとして何をするのかが大切だから、これからは自分は何が好きなのかっていうことをもう少し考えていきたいかな。
自分は何が好きなのか、もっと知りたいかも。

◇じゃあ最後に、これを読んでくれている人たちへメッセージをどうぞ!

ロンドンに来た時は、ぜひ一緒にご飯に行きましょう!(笑)
ぜひお仕事も一緒にできたら嬉しいです。 
高瀬綾乃 | Ayano Takase
PROFILE
高瀬綾乃 | Ayano Takase
ロンドンでアートスクールを卒業後、
クリエイティブエージェンシーWieden+​Kennedyに入社。
東京オフィス、ロンドンオフィスに8年間勤務し、2020年に独立。
ayanotakase.com 

Direction & Interview : Ryosuke Yokoe
Text : Mae Kakizaki