巽 啓伍 × タケシタトモヒロ対談
気鋭のフォトグラファー、タケシタトモヒロによる個展『Across the United States』が9/3(火)から9/15(日)まで開催されている。
「約40日のアメリカ横断のなかで撮影した写真」というだけで既にその覚悟と意欲がうかがえるが、当個展の"見どころ"はそれだけに留まらない。現地で録音された環境音を使って巽 啓伍(never young beach / Ba)が展示音楽を手がけるというサウンド面からのアプローチも加えられたのだ。
そこで、今回の互いの作品、そして自身の作品への思い入れや、普段の制作について聞くべく、メールで質問を投げかけ、対談形式を取りながら(なかばセルフで)掘り下げてもらった。
◇まずはお互いの紹介をお願いします。
巽 啓伍(以下 : 巽) : 出会ったのは4年前くらいかな?音楽やってる共通の友人を通して知り合った。その時、タケ(竹下)は仕事を辞めて写真だけでやっていくってなってた時だったね。でもその時はまだ写真集みたいなのって出してなかった?
タケシタトモヒロ(以下 : タケシタ) : そうです。今回が初めてなので。
巽 : そうか。今回初めての写真集と個展を出すということだね。
タケシタ : 次は僕からのたっさん(巽)の紹介ですね。出会いの話は今話してもらった通りですが、出会った日にはまだ濃厚な印象はなくて。というのも、もちろんnever young beachのことは知ってたんですが、たっさんに初めて会った時は、人がたくさんいたから全然話せなかったんですよね。
巽 : 確かにガヤガヤしてる場所だったね。
タケシタ : でも、次第に別の場所でも会うようになって。ゆっくり話す機会も増えたりして。そのなかで、知れば知るほど多才な人だと感じました。特にそれを思ったのが、たっさんが写真を撮ってるという面ですね。
巽 : 写真に関しては、自分の目線で記録したものがあると、自分にとって良いから続けてるというか。
タケシタ : いやいや、クオリティが高いものを撮られています。だからミュージシャンとしての面はもちろん知っていたけど、たっさんのことを知っていくうちに、ミュージシャンという枠にハマらずに多彩な表現活動をされている方、という印象が強くなってきました。
巽 : ありがとう。なんか後攻の方がいいこと言えるね(笑)。
タケシタ : (笑)
◇制作活動において、「感じたまま動くこと」と「考えて動くこと」はどちらが多いですか?
タケシタ : 急に難しい質問になりましたね!
巽 : そうだなあ。僕は、いつも考えて動きがちなんですが、感じたまま動いた方が良かったことの方が多いと思います。それこそ今回の展示の空間に流す音にしても一緒で。これまでも1人で音楽を作ってはいたけど、普段は「世に出せる合格点」に届いてるものができてるかどうかを悩んでしまって発表しないことも多かったんです。でもタケが今回のサウンドを任せてくれた時に、「これはもうやるしかない。やるだけやって後悔しないとこまで持っていこう」って決めて動けたんです。だから割合としては、考えるのが2割、あとの8割は感じたまま動くくらいのバランスでいきたいなとは思っています。タケはどう?
タケシタ : 僕は、何かをやる前にすごい悩むんですよね。悩んで苦しんでやった結果、生まれたものに対して大きな喜びを感じる難産型なんです。あと知り合いにも「石橋を渡る前、めっちゃ何回も叩くのに、渡る時はめっちゃ走るよね」と言われたことがあります。めっちゃビビリで怖がりだけど、ある程度悩み切ったらやってしまうところがあって。結局、考えて考えて最後の瀬戸際に立った時にはじめに立ち戻って、そこからは感じたまま行動に移します。でも、ベースは考えることが多いですかね。
巽 : 考えた結果、感じて動くという複合的な感じだよね。
タケシタ : そうですね。たっさんもめちゃめちゃ考えるタイプですよね。
巽 : そうだね。はじめから感じたまま動くことに憧れてるかも知れない。
タケシタ : 僕もそうです(笑)。
◇制作を行ううえで、どんな時にインスピレーションが沸きますか?
タケシタ : 僕はシンプルなんですけど、クオリティの高い何かを鑑賞した時ですね。例えば音楽、映画、写真、絵画とか、クオリティが高い作品を見た時に今まで脳の中で眠ってた引き出しが開く感覚があって。そういう時にインスピレーションが湧きます。ただ、そこで得たインスピレーションを形にするのは、一人で落ち着いて過ごしている時が多いです。
巽 : 僕は人の人生や生活を想像する時に沸きます。というのが、世界を旅している知り合いの動画配信者がいて。その人がフランス領ギアナに行った時に、現地で散歩してて出会った黒人の青年と会話してる映像があってね。僕は「この黒人の青年が会話の後にどこに行くんだろう」とか、「どんな家に住んでて、そこではどんな音楽を聞いてるんだろう」って、すごく想像してしまうんです。そうやって他人の暮らしを想像した時に、そこに合うものを作ってみたいなって思うんです。その人の人生におけるサウンドトラックを作りたいっていうか。だから実際の生活でも、例えば街に出た時に「こういう人がいた」とかメモしてそれを制作の時のアイデアにしたりもします。
タケシタ : 具体的でかっこいい回答だ……(笑)。
巽 : だから質問に答えるとしたら「人の生活を想像する時」すね。
タケシタ : たしかにそういう考えのもと制作されているのは、今回作ってもらった音楽を聴くと伝わってきます。僕、今回の作品のなかで、その日初めて会った人の家に連れてってもらって、部屋の中で写真を撮らせてもらったりしてたんですけど、そういう写真ってその人の暮らしを想像させるじゃないですか。だからそういう想像できうる余白のようなものを、作ってもらった曲にも感じました。
巽 : 「初めて会った人の家で写真を撮る」っていうところで、その人の暮らしやストーリーが伝わってくるわけだけど、それを撮ってるタケにもドラマがあるわけでしょ?そこまでパッケージングしたいって思ったんだよね。
◇今回の個展における互いの作品への第一印象を教えてください。
巽 : タケの今回の作品に関して、僕はまだラフみたいな状態でしか見ていないのでなんとも言えないんですが、でも意外だったかな。今まで見てきたタケの写真とはアプローチが違っていて。だからこそ気合いを感じたというか、ギアを2、3段階くらいあげたんだろうなっていう感じはしましたね。写真展で完成した作品を見たら、また何か感じるものがあると思うけど。
タケシタ : ありがとうございます。僕からのたっさんの音楽への印象なんですが、僕の写真の雰囲気だけでなく、僕とたっさんの今までのやり取りも含め反映してくれたんだろうなと思いました。僕は本気で普段からたっさんのセンスに対して全幅の信頼を置いていて、会うたびに好きな映画とか、最近聴いた音楽とか、見たライブの話をしたりしてるんですね。そういうやりとりのなかで、たっさんも僕の好きな感じをぼんやり掴んでくれているんだろうなって思うんです。だからたぶんこれが、今までの関係性がなく初めましての人だと絶対違う形になっただろうなって思います。それから映画のサントラに近いなという印象も受けました。サントラってストーリーに合わせて抑揚が変わっていくじゃないですか。そういった起承転結も今回の音楽の中にたしかにあって。僕の旅のイメージを、僕の好みも含めて分解して再構築してくれたんだなと。だから僕のことも、旅のことも、僕が好きなたっさんのセンスも、全て考えてくれている!と思ってめちゃめちゃ感動しました。
巽 : なるほど。確かに起承転結だったり、タケが旅をしてる時の心境 ―緊張や葛藤も含め―は表現したいなって思ったね。
タケシタ : 「起承転結」というか、改めて考えると「結」がない「起承転」にも感じますね。起・承・転まで行って、着地する前にまた「起」に戻るというか。実際に写真展で音楽を流してそれを感じました。始まって、それが終わる前にまた始まりに戻るような。
◇巽さんにとって最も影響を受けたフォトグラファーは誰ですか?また竹下さんにとって最も影響を受けたミュージシャンは誰ですか?理由も合わせてお願いします。
巽 : マルセロ・ゴメスっていうブラジルの写真家です。この人の写真はちょっと実験的というか抽象的な要素が多くて。最近、自分のなかでも「鏡花水月法」(編集注 : 直接その物事を説明せずに、その姿が読者にありありと思い浮かばせる表現法)を意識していたので、それがまさに合う。僕が音楽で表現したいのも、そういった言葉では表現できないものなんだなって。今回の作品にも通じますが、言葉はイメージを特定したり具体性を持たせる事にすごく効力を発揮するけど、それが時には諸刃の剣になる場合もあると思っていて。今回は、特定のイメージを持たせる事から離れることで匿名性が産まれて、誰でも自由に想像できる余白を持たせてみました。
タケシタ : 「影響を受けた」というと恐れ多いんですけど、僕は坂本龍一さんです。亡くなられる前後くらいの頃に自著を読んだり、お年を召してからのライブ映像を見たり、是枝監督の映画『怪物』のサントラを聴いたりしていたんですが、若い頃に作ってたものと晩年に作ってたものでスタイルや考え方がかなり変わっていて。僕、作ったものを世に出すのがすごい苦手なんです。その時々で思ったことって変わっちゃうかもと思ってお蔵入りになることもあって。でも、あそこまで偉大なミュージシャンでさえも変化を遂げてきたわけだし、しかも作品を生み出し続けた結果、最後に辿り着いた境地も本当に素晴らしいものだということに感銘を受けました。だからその後の変化を恐れるよりも、その時に思ったことを作品に落とし込んで、それを繰り返した先にある成熟した何かを目指してやっていけたらと思いました。
巽 : なるほど。さっきの「感じたまま動く」にも通じるものがありそうだね。
◇今回の写真と音楽のコラボレーションということでお互いにどのような効果を期待しますか?
巽 : コラボレーションという感覚は、僕はあんまないですね。メインは写真なので、そこに対してどれだけ良いお漬物とか副菜を添えるかを考えました。「効果」に対しては、写真と音楽を同時に鑑賞するというのは、タケが撮影の時に経験した心の変遷のようなものの疑似体験に関して、写真だけを見ること以上に受け取り方のレンジ(幅)は広がるんじゃないかなと思います。その相乗効果は期待してるかな。
タケシタ : ありがとうございます。この対談の時点で展示は既に始まっているんですが、「個展の前に期待していた効果」と「個展が始まって実際に起こった効果」では少し違ったんです。「期待していた効果」で言うと、たっさんがさっき言ったように、写真をただ視覚的に受け取るだけじゃなく、音楽という別レイヤーも入ることで鑑賞における奥ゆきがより深まるんじゃないかなと思っていました。それに対して「実際に起こった効果」は、―例えとして合ってるか微妙ですが ―カツ丼を作る時に、僕がカツを揚げてたらたっさんが漬物作ってくれる…と思ってたら、めっちゃおいしいお米を作ってくれた感じでした(笑)。音楽って人によっては主役にも感じうる部分じゃないですか。実際に展示を訪れた人の中には説明する前から音楽に反応してくれた方もいたんですよ。だから前には出てないけど、それがあることで全体が良くなるっていう効果があった。ほんとに良いものを作ってもらったと思います。
◇今回の展示の見どころは?
巽 : 自分はまだ現地に行けてないので、これに関してはタケが答える方がいいかもね。
タケシタ : 見どころについてシンプルにいうと、旅の前に僕がイメージしていたアメリカと、実際に行って「良いな」って思った部分が意外と違くて。アメリカって乾燥しててカラッとしたイメージだったんですが、撮影でいろんな人の家とかに行ったり会話をしていたりすると、湿度を感じるところもあるんですね。しかもそういう「湿度」は、人の生活に踏み込めた時に初めて感じられたんです。そういう湿度だったり素敵だなと感じた質感をメインで展示しています。それから展示に使った写真は写真集から抜粋してるんですけど、いわゆる「写真集のハイライト」というか、同じ見え方にはしたくなかったんです。例えば積み木も、同じブロックでも、横に詰んだのと縦に積んだのとで見え方が全然違うじゃないですか。だから写真集は流れを感じてもらいたいから横に積んでいるとしたら、展示では、より深さをイメージして縦に積んで…というふうに作ってるから、その見え方の違いが見どころです。さらにそこに音楽も入るから、縦に積んだ積み木がもっと上に伸びていく。その深さの違いを見てほしいですね。
◇最後にこの記事をご覧になっている方々に一言お願いします。
タケシタ : 間に合えばぜひ展示に来ていただきたいのと、写真集も手に取ってみてほしいですね。それと展示で流れているたっさんの音源がカセットテープとしてリリースされるので、それを聴きながら写真集を見るとまた違った情景が見えると思います。
巽 : そうだね。テープを聴きながら写真集を見ると、ある種、展示の擬似体験ができるかもしれないね。 しかも展示会場と自宅とで、また感じ方が違うかもしれない。音って不思議なもんで、聴く空間によって自分の耳に引っかかる部分が変わってきたりするんだよね。だから場所が変わることで「こんな音入ってたっけ」って気付けるのも楽しいし「展示ではここに注目してたけど、本のサイズで見ると見るポイントが違うな」とか、そういう些細な違いにも気づけるとより楽しめるんじゃないでしょうか。
タケシタ : そうですね。また違った「相乗効果」が感じられるかもしれません。
巽 : だから展示にも来て、写真集も買うのが一番良いですね!ぜひ。
Across the United States
タケシタトモヒロ | Tomohiro Takehiro
この度、写真家・タケシタトモヒロによる自身初の個展「Across the United States」を開催、同名写真集を出版いたします。
本展は、2023年4月20日から5月31日までの約40日間をかけアメリカを横断、同国にて撮影を行った写真から構成されます。手のひらの上で、瞬時に世界中の情報へアクセスできる現代において、身体性の伴う経験から得られるものを再確認するように辿った旅の軌跡を示し、これからの時代の歩み方を共に考えるための試みとなります。
また会場では、作家がアメリカ各地にて蒐集した環境音を使用し、巽啓伍(never young beach)により制作された展示音楽をご鑑賞頂けます。同展示音楽は限定本数をカセット化、展示会場にて販売予定となっております。
写真と音楽とを融和させ、現地で流れる空気を閉じ込めた展示を、ぜひご高覧頂ければ幸いです。
■作品ステートメント
意外にも手触りのある瞬間は、後ろ姿に、影の中に、誰かの落とし物に、ベッドルームに、予期しない小さな隙間にも紛れているように感じられた。尺度すら体に馴染んでいなかった広いアメリカという国が、光と運動の断片を集めることによって少しずつ自分の中に溶け込んでくる。
海を超えた場所、知らない誰かと同じ時間軸を進んでいると実感できる機会は、普段の生活において多くない。交わした言葉の抑揚、流れ続けている生活や文化の質感が、五感を通して自分に有機的に編み込まれ、初めて現実になっていく。
知らないものをそのままにしておくよりも、実際に足を運んで身体的に経験する方がずっと気持ちがいい。当たり前の事だ。当たり前なのにすぐに忘れてしまうから、旅に出て何度も思い出す。
■会場 / 開催日時詳細
会場:TOTEM POLE PHOTO GALLERY
会場住所:東京都新宿区四谷四丁目22 第二富士川ビル1F
開催日時:2024年9月3日(火) – 9月15日(日) 12:00 - 19:00 / 月曜日休廊
入場料:入場無料
会場WEBサイト:https://tppg.jp/
■写真集情報
『Across the United States』
Page:110p / full color
Size:W216×H280 mm
Edition:500
Design:Eri Kotani
softcover, self publishing
タケシタトモヒロ | Tomohiro Takeshita
1991年長崎生まれ、埼玉にて育つ。
現在は東京を拠点に、ポートレートを中心とした様々なコマーシャルワーク・作品制作を行う。
Website : https://www.t-takeshita.com/
タツミケイゴ | Keigo Tatsumi
ミュージシャン / 写真家
never young beach,Bass
"AT US"
Label : Mystery Circles
format : Cassette Tape / Digital Steraming
10/2(Tue)より各種ストリーミングサービスで配信開始予定。
Direction : GOOD ERROR TEAM
Photo : Yusuke Oishi
Text : Seiji Horiguchi